「伝え方には技術があり、共通のルールがある」
「感動的なコトバは、つくることができる」
「3年連続ビジネス書年間ベスト10入り」
などなど、魅力的な文言が並ぶ”そで”(カバーや帯を内側に折り曲げたあの部分)が目についてから、ずっと読んでみたいと思っていたこの本。
先日ようやく読了したのですが、あくまで個人的な感想を申し上げるなら得るものがあまりにも少なかったな、と。
しかし、この本がタイトル詐欺だったかというとそうでもなく、単純にこの本が想定したターゲットに私が当てはまらなかっただけなのかなとも思いました。
これからコピーライティングを学ぶ人の、最初の一冊としては非常に読みやすくていいと思います。
とはいえ、私と同じようにがっかりする人が一人でも少なくなれば読者にとっても著者にとっても一番いいだろうと思うので、ここでは私が感じた「ビミョー」な点を赤裸々にいくつか上げていこうと思います。
- 文章に限らず言葉のやり取りがとにかく苦手
- センスがないのにうっかり文章を書く仕事を任されてしまった
- メールやチャットの文面が堅すぎるような気がして悩んでいる
- 得意かどうかはおいといて、言葉のやり取りに抵抗はない
- すでにライティング本を勉強しているけど、さらにスキルを上げたい
伝え方が9割:概要
筆者である佐々木圭一さんは現在では著名なコピーライターですが、かつては自分を表現したり、文章を書いたりするのがとにかく苦手だったそう。
そんな彼が入社後に配属されたのが、よりにもよってコピーライター。
モノを言葉で伝える仕事です。
伝え方、書き方全てを否定され続けるうちに、ストレスで過食になり1年で10kgも太ってしまいました。
そんな彼が、なんとか現状を打開しようともがきながら見つけた「心を動かすコトバのレシピ」を紹介してくれる――と言う本です。
ざっくりと分けると
・相手にお願いごとをするときに使える、「ノー」を「イエス」に変える7つの切り口
・人の感情を動かす「強いコトバ」をつくる5つの技術
上記の二部構成といったところ。
伝え方が9割:読んでいて「ビミョー」と感じた点
概要でも書きましたが、筆者はかつてとにかくコミュニケーション全般が苦手な人でした。
つまり、想定される読者は過去の著者のように「文章や言葉のやり取りで自分を表現するのが苦手な人」だと割り切ったほうがいいですね。
メールも会話も必要ない仕事はそう多くはないでしょうから、上記のような人にとっては十分役立つ本だと思います。
ただ、残念なことにこの本は「教科書」というよりは「救援ボート」くらいのポジションです。
本当ににっちもさっちもいかなくて悩んでいる人にとっては助けになると思いますが、いつまでもこの本を頼りにしていると溺れることはなくても目的地には永遠にたどり着けなさそうだなーなんて思いました。
目次だけ見るとなかなか期待できそうな感じがしたのですが、実際読んでみると肝心の部分がちょっと……と思った部分を挙げていきます。
文章がところどころ変
ここでお断りがあります。この本は正しく、美しい日本語を学ぶための本ではありません。本文中でもあえて日本語としての間違いや、学校ならしかられてしまうような常識はずれな書き方/伝え方が出てきます。
伝え方が9割(p.9)
と、序盤で筆者自ら書いているんですが、仮にも文章を書くことを仕事にしている人の本なのにこれでいいのか??と思ってしまうレベル。
あえてとされているのは、おそらく本文中に出てくる「この本の正解は『愛している』ではなく『愛してる』です」あたりのことを言っているんだと思いますが、そういうレベルじゃない間違いがちらほらあります。
これ出版する前に推敲してくれる人いなかったのかな?と思うとちょっと悲しくなりました。
句点が多くて読みにくい
誤解のないように言っておくと、この本自体は「普段あまり本を読まない人」にとってはとても読みやすいです。
約200ページのボリュームですが、各ページたっぷり行間が取ってあるのでさくさく読み進められるし、ちょこちょこ犬?のかわいいイラストが入るので、活字しかない本とかマジ無理wwwという人でも最後まで読める配慮がされています。
ただ、ある程度文章の読み書きに慣れた人だと上記の間違った日本語と相まってところどころかなり読みづらいと思います。
仮にも「書籍」という形で世に出ているのに、話し言葉をそのまま書き起こしたような……ビジネス書というよりはエッセイ本に近いものがあります。
見出しと具体例の齟齬
「イエス」に変える切り口の6番目に紹介されているのが「チームワーク化」。
やってほしいことをそのまま伝えるより、一緒にやらない?と提案したほうが受け入れてもらえる確率が上がるという内容で、それはその通り。
ただ、具体例の一つとして出てきた
「講演になんとなく参加した意欲的でない人たち」に矢継ぎ早に質問したあと「私もいっしょです」と共感を示して話に引き込む
というくだりが「チームワーク化」とされているのがイマイチ納得いきませんでした。
「みなさん、私といっしょに授業をつくりましょう」という暗黙のメッセージがあったことで全員の心が動いたのでした。
伝え方が9割(p.85)
なんてそれっぽくまとめられていますが、それとこれとは話別じゃないか?と思いまして。
「人はひとりだと面倒なことでも、人といっしょなら動く」という特徴を利用した切り口のはずが、筆者が経験した過去の事例を無理やり7つの切り口のどれかに突っ込もうとした結果ズレてしまったのかなと感じました。
実行されるとイラッとしそうなノウハウ
全部挙げるとキリがないので、ひとつだけ。
デジタル文字は自分が思っているより冷たく感じられるから、メールの文章は感情30%増量でちょうどいい、という内容が出てきます。
まあそれはその通りなんですが、30%増量の具体例があまりにもあんまり。
⇓ 30%増量
書類ご確認ください!
書類ご確認くださいねーー。
いや待て待て待て。
「!」はともかく「ねーー。」はない。
これは確実に顰蹙買うわ。
普段から気軽にLINEのやり取りをするような間柄ならまだ許せそうですが、そんな気の知れた相手ならちょっとくらい文面が堅くても「まああいつ仕事のメールだといつもこんな感じだしな」で済む話です。
ここまでさんざん「ノー」を「イエス」に変えるための技術について書いてあったのに、この例文をそのまま使ったら全部水の泡になりそう。
私だったら「バカにしてんのか??」と思って読む気なくしますね。
さらにタチが悪いことに、
はじめ、書いてみると違和感が出ると思います。「私のキモチより、ちょっと強すぎる」と。
伝え方が9割(p.200)
(中略)
受け手にとってみると、30%増量でちょうど手書きと同じくらいのあたたかみなのです。ですので、「違和感OK!」で思い切って書いてみてください。
などと恐ろしいことが書いてあります。
これちょっとおかしくない?
と、文章が苦手ながらに気づいて踏みとどまろうとした人の背中を無責任に後押ししてしまう締め方。
この本を信じて、今度こそ企画が通ると信じて、「書類ご確認くださいねーー。」と気難しい上司にメールしてしまう不幸な人がいないことを願うしかありません。
伝え方が9割:読んでよかったところ
さて、ここまでけちょんけちょんにこき下ろしてしまったので、少ないながら役に立った点についても書いておきます。
自分にとってのメリットと、相手のデメリットの共通点で攻める
「イエス」に変える切り口の2番目に紹介されているのが「嫌いなこと回避」。
私がこれまで学んできた中で、相手にとってデメリットがあることは
「デメリットに感じないようにポジティブに言い換える」
「先にデメリットを伝えた上で、それを上回るメリットがあると伝える」
といったやり方が主流でした。
なので、自分のメリットと相手のデメリットの共通点を見つけ、デメリットを強調することで自分にとってメリットがある方に相手を動かすという考え方は新鮮でした。
感情を伝えるとき、体の変化を意識してコトバに取り入れる
「強いコトバ」をつくる技術の3番目に紹介されている「赤裸々法」。
感情を伝えるコトバの前に、自分の体の反応を赤裸々にコトバにして入れると効果的という内容です。
感情を表す表現として顔色や汗がよく使われますが、顔以外のパーツでも使えるんだな、と理解できたのはよかったです。
伝え方が9割:読後感想まとめ
繰り返すようですが、この本をおすすめできるのは「これからはじめてコトバを伝える方法を学ぶ人」です。
それ以外の人は、他の本を買ったほうが得られるものが多いだろうと思います。
よかった点がないわけではないですが、わざわざ数ある中からこの本を選ぶ意味は薄いかなと。
ですが、筆者の経歴を見るに
「ひょっとして、ターゲット層に合わせてあえて内容を薄くしているのでは…?」
とも思えてきたので、近々続編の方も読んでみようと思っています。
→読みました!
もしそれでも読んでみたいと言う方は、メルカリやヤフオク!で安く手に入れるのもありですね。
メルカリなら中古で600~800円程度で手に入ります。
読み終わったらそのまま出品すれば古本屋で売るより高値になるので、実質の出費は300円くらいですかね。
初回登録時だけ使える招待ID「JNZJYC」入力していただくとお互いにポイント入りますので、まだの方はぜひお使いくださいませ。
「いや、どうせ読むなら新書で!」という方……
ここまでこき下ろされているのにいるとは思えませんが、Amazonには私より辛辣なレビューがいくつもありますので、そちらもちゃんと目を通してから購入されることをおすすめします。
ちなみに、この本でもまだきつい!活字嫌い!という危機的な人には漫画版もありますよ。
読みやすさでいったら断然こっちですね。